ナフサが「プラスチックの原料」と聞いても、液体のナフサがどうやって固体のプラスチックになるのか、最初はまったくイメージできませんでした。「エチレンって何?」「ナフサとエチレンはどんな関係?」「なぜナフサ不足でプラスチックが作れなくなるの?」と疑問に思っている方も多いはずです。この記事では、ナフサからエチレンが作られる仕組みを中心に、その先の製品との繋がりまでわかりやすく解説します。
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「ナフサとエチレン」を簡単にまとめると
ナフサを800〜900℃の高温で水蒸気とともに熱分解する「スチームクラッキング」という工程を経て、エチレンが生成されます。
エチレンはナフサ重量の約30%の収率で得られる最重要の基礎化学品で、ポリエチレン・塩化ビニル・合成繊維など現代の化学製品のほぼすべての出発点です。ナフサが不足すると、このエチレン生産がまず止まり、川下の製品全体に連鎖的な影響が広がります。
ナフサとエチレンとは?基本を理解しよう
ナフサは原油を蒸留して得られる石油製品のひとつで、パラフィン・ナフテン・芳香族などの炭化水素が混ざり合った液体です。ガソリンに見た目は似ていますが、自動車燃料ではなく化学製品の原料として使われます。
エチレン(C₂H₄)は炭素2個と水素4個からなる非常に小さな分子で、常温では無色無臭の気体です。分子内に炭素同士の二重結合(C=C)を持つため化学的に活性が高く、他の分子と結合しやすい性質があります。この性質こそが、エチレンをプラスチックの出発原料として最適にしている理由です。
ナフサとエチレンの関係を一言で言えば、「ナフサは原料、エチレンはナフサを分解して得られる中間製品」です。ナフサそのものにエチレンは含まれておらず、高温処理によって初めて生成されます。
ナフサからエチレンが作られる仕組み
スチームクラッキングとは
ナフサからエチレンを作る工程は「スチームクラッキング(蒸気熱分解)」または「ナフサ分解」と呼ばれます。この工程を行う設備が「ナフサクラッカー(エチレンプラント)」です。
工程の流れは大きく3段階です。まずナフサを水蒸気(スチーム)と混合して加熱炉に送り込みます。次に800〜900℃という非常に高い温度の炉内を、わずか0.3〜0.6秒という短時間で通過させます。この間にナフサの分子が激しく分解・再結合し、エチレン・プロピレン・ブタジエンなどの小さな分子が生成されます。最後に分解ガスを急冷して400〜600℃まで下げ、それ以上の分解を止めます。その後、蒸留によって各成分を分離精製します。
水蒸気を混ぜる理由は、炉内の管の表面に炭素状の物質が堆積して詰まるのを防ぐためです。水蒸気がナフサを希釈することで、この「コーキング」と呼ばれる現象を抑えます。
温度800〜900℃というのは、鉄が赤く溶け始める温度に近い数字です。家庭のオーブンの最高温度(約300℃)の約3倍という、想像を超えた高温で処理が行われています。
何がどのくらいできるのか
スチームクラッキングで生成される主な物質とその収率(ナフサ重量に対する割合)は、エチレンが約30%、プロピレンが約15%、ブタジエンが約4%、芳香族炭化水素(ベンゼン・トルエン・キシレン)が約15%、その他(メタン・水素など)が残りです。
エチレンの収率が最も高く、石油化学工業においてナフサ分解の主目的はエチレン生産と言えます。プロピレン・ブタジエン・BTXも同時に得られる副産物として重要で、これらも各種プラスチック・ゴム・繊維の原料として利用されます。
前に使っていた情報では「プラスチックはナフサから作る」としか書いておらず、間にエチレンというステップがあることをまったく知りませんでした。エチレンという「橋渡し役」の存在を知ってから、ナフサ不足がなぜあれほど広範な影響を及ぼすのかが、ようやく頭の中でつながりました。
エチレンから何が作られるのか
エチレンの最大の用途はポリエチレンの製造です。エチレン分子を多数つなげる(重合させる)とポリエチレンになります。「poly(たくさん)+ethylene(エチレン)」という名前の通り、エチレンの集合体です。
ポリエチレン以外にも、塩化ビニル樹脂(PVC)・ポリエチレンテレフタレート(PET)・酢酸ビニル・エチレングリコール(不凍液・ポリエステルの原料)など、非常に幅広い化学品の出発点になっています。
コンビナートと呼ばれる石油化学プラント群では、ナフサクラッカーで作られたエチレンがパイプラインを通じて周辺の工場に供給され、各工場でそれぞれの製品に加工されます。この構造が「川上・川中・川下」という表現の意味するところで、エチレンは川上に位置する最も重要な起点です。
| 主な誘導品 | 身近な最終製品 | |
|---|---|---|
| エチレン | ポリエチレン・塩化ビニル・PET | 袋・ラップ・ペットボトル・水道管 |
| プロピレン | ポリプロピレン・アクリル樹脂 | 食品容器・自動車部品・繊維 |
| ブタジエン | 合成ゴム(SBR・BR) | タイヤ・靴底・ホース |
| BTX(芳香族) | ポリエステル・ナイロン・フェノール樹脂 | 衣類・断熱材・接着剤 |
ナフサ不足がエチレン生産に与えた影響
2026年2月末のホルムズ海峡封鎖を受け、ナフサ供給が急激に滞ったことで、エチレン生産が直撃を受けました。
石油化学工業協会(JPCA)の発表によれば、2026年3月の国内エチレンプラントの実質稼働率は68.6%で、1996年の統計開始以来の最低記録となりました。また2026年2月のエチレン総生産量は前月比23%減の33万4,200トンとなり、これも過去最低です。
国内12か所のエチレンプラントのうち半数以上が減産に入っており、エチレン設備は一度完全停止すると再稼働までに多大な時間とコストがかかるため、各社は完全停止を避けながら最低限の稼働率を維持する苦しい対応を続けています。
エチレンプラントの稼働率低下は川上の問題にとどまらず、コンビナート全体のパイプラインを通じて川中・川下のすべての工場に影響が波及する構造になっています。
よくある質問
Q1:ナフサとエチレンはどう違いますか?
ナフサは原油を蒸留して得られる液体の混合物で、化学製品の「原料」です。エチレンはナフサを高温で熱分解して得られる気体の化学品で、プラスチックなどの「中間原料」にあたります。ナフサそのものにエチレンは含まれておらず、スチームクラッキングという工程を経て初めて生成されます。
Q2:エチレンはナフサからしか作れませんか?
主流はナフサですが、エタン(天然ガスの成分)を原料とする方法もあります。米国ではシェールガス由来のエタンを使ったエタンクラッカーが普及しており、ナフサクラッカーより製造コストが低い場合があります。日本や欧州はナフサクラッカーが中心で、中東依存のリスクを抱えています。
Q3:エチレンプラントが止まるとどうなりますか?
エチレン供給が減ることで、コンビナート内のポリエチレン・ポリプロピレン・塩化ビニルなどの製造工場も連鎖的に減産します。最終的にはゴミ袋・ラップ・食品容器・水道管・医療用品など幅広い製品の供給不足と価格上昇につながります。
Q4:スチームクラッキングの「スチーム」は何のために使うのですか?
水蒸気(スチーム)はナフサを希釈するために使います。水蒸気なしでナフサだけを加熱すると、炉内の管の表面に炭素状の物質(コーク)が堆積して詰まってしまいます。水蒸気で薄めることでこの現象を防ぎ、安定した分解反応を維持します。
Q5:エチレンの収率30%というのは高いですか低いですか?
ナフサ1トンからエチレン約300kgが得られる計算で、石油化学の観点では非常に高い収率です。残りのプロピレン・ブタジエン・BTXも有用な化学品として利用されるため、ナフサ分解では原料のほぼすべてが価値ある製品に変換されます。
Q6:日本のエチレン生産能力はどのくらいですか?
日本国内にはエチレンプラントが12か所あり、通常時の年間生産能力は合計で数百万トン規模です。2026年の中東情勢を受けた減産以前の通常稼働率は80〜90%程度でしたが、ナフサ不足により2026年3月には68.6%まで低下し、統計開始以来の最低記録となりました。
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ナフサからエチレンが作られる仕組みは、800〜900℃という高温で水蒸気とともにナフサを熱分解する「スチームクラッキング」です。この工程でナフサ重量の約30%のエチレンが生成され、そこからポリエチレン・塩化ビニル・PETなど現代の化学製品が作られます。
エチレンはコンビナートの川上に位置する最重要の起点であり、ナフサ不足によってエチレン生産が滞ると、川中・川下のすべての製品に連鎖的な影響が広がります。2026年3月の国内エチレンプラント稼働率が統計開始以来最低の68.6%を記録したことは、この連鎖の深刻さを如実に示しています。
この記事を書くまで、ナフサとプラスチックの間に「エチレン」というステップがあることを意識したことがありませんでした。800〜900℃という極限の温度処理を経て、液体が気体になり、気体が固体のプラスチックへと変わっていく。この流れを知ってから、日用品を手にするたびに少し違う見方ができるようになった気がしています。

